山の中でメッシュネットワークを構築したい
福井県の県花は知っていますか。「水仙」です。福井県の水仙は越前水仙と呼ばれ、日本三大水仙産地の一つでもあります。日本海外の越前海岸では、毎年冬になると山の斜面に水仙が咲き誇り、その光景の美しさから、2020年には国の重要文化的景観にも指定されました。
そんな越前水仙ですが、近年シカ・イノシシによる被害が深刻で大変なことになっています。場所によっては、出荷が0になった場所もあるそう。。
ちなみに水仙は球根の分裂により増えますが、球根が食べられると滅びます。シカにも個体差があって、以下の画像のように根本の生え際の一番おいしいところだけかじるするグルメなシカもいます。これをされると球根が弱り、花が数年咲きません。農家ブチ切れ案件です。
この問題を最新のICT技術を使って少しでも解決できないかと考え、水仙畑を守るためにICTを用いた獣害対策の研究をしています。山の中をネットワークでつなぐことで、次のようなことを実現したい。
- 家からスマホで寝ながら獣害対策がしたい
- 腰が悪い高齢者でもできる!持続的!
- 複数の地点で連動・連携するような獣害対策機器を作りたい
- 広範囲を守れてうれしい!
- どんな動物がいつ、どれくらい出現しているのか生態把握したい
- クマもいるよ!
- 現れる動物の種類に応じて異なる獣害対策ができると面白い
- 追い払うか捕まえるか。それが問題だ。
ネットワークの必要要件を考える
世の中、お金さえあればだいたいの問題は解決します。よっぽど深くの山でない限り、キャリア回線(4Gや5G)は繋がるんだから、それ使えばよくない?って思いますよね。
でも、それSIMが何枚いて月額費用いくら?水仙農家ってそんなお金持ちなの?ん?持続的なの?どこからお金でるの?ってなりますよね。もちろんお金はないです(切実)。
研究費を取得してもずっと研究費が出続けるわけではないので、運用コストを極力下げる必要があります。さらに電力どこからとってくるのか問題もあります。でも画像を送ったりするならそれなりの帯域も確保する必要があるわけです。このような事情から、この研究のネットワーク要件を以下のように定めました。
- 低コスト
- 持続費用を極力抑える
- 低燃費
- 太陽光等の自然エネルギーで動作
- 広範囲
- 水仙畑を囲えるエリア
- 遮蔽物に強い仕組み
- 屈折率(木がたくさん生えている)
- メッシュ化
- それなりの通信速度
- 画像を送れるくらいのbpsレベルは欲しい
LPWAの検討
情報関係の職業や研究をやっている方なら、↑の要件からLPWA(Low Power Wide Area)を検討されると思います。私たちもLPWAに大いに期待を寄せて調査を開始しました。例えば、以下のサイトにはLPWAの一つであるLoRaWANについて以下のように記載されています。
これらの記事を読めば読むほど、私たちの研究に最高にマッチしていると思いまよね。LPWAの中には(キャリアが提供するものあるが)独自のローカルネットワークを構築することができ、機器間をメッシュ化することもでき、920MHz帯域で遮蔽物にも強く、郊外最大15Km飛び、最大50kbpsの速度もでる。しかも低燃費、ローコスト。「は?最高かよ。」
LoRAWANで実験
さっそくLoRAWANとZigbeeで実験をしてみました。実験方法は、大学の屋上(17.4m)にLoRaWAN(親機)を置き、子機を2Mくらいの棒につけて、どこまで届くのか。
ということで、3回くらい天気を変え、時間を変え、実験しましたが、わかったことはどれだけ頑張っても1kmも届かない。通信速度も1kbpsもいってない。見晴らしはいいはずなんだけどなぁ。
少し論文も読み直してみて表にしたのが以下のような感じ。あ、うん。高さが大事ね。そうね。田舎に高い建物ないね。うまい話なんてそう転がってないですね。
表 設置環境による電波到達実験
通信規格名 | 設置位置 | 地上からの高さ | 障害物 | 電波到達距離 |
LoRaWAN | 琵琶湖大橋 | 26.3m | 少ない | 5.0km |
LoRaWAN | 富士山五合目 | 2,305m | 少ない | 123.43km |
LoRaWAN | 気球 | 25,000m | ない | 766km |
Sigfox | 東京スカイツリー | 350m | 少ない | 110km |
Sigfox | 西黒尾根(登山道) | 1,516m | 多い | 通信失敗 |
ZETA | 越後平野 | 42.2m | 少ない | 20.0km |
ZETA | 黒崎地区平野部 | 2m | 多い | 1.0km未満 |
まぁしかし、課題が見えたとのでよしとする。
最大900m通信できるなら、水仙畑の柵の範囲くらいなら使えそうな気がする。ただ、この通信速度では心もとない。ちなみにZigbeeも試したが、LoRaWANとだいたい似たような結果になった。
そこで、次にWi-SUN FANを検討。株式会社ロームさんが実験に付き合ってくれて、森の中での実験も行ってみた。
Wi-SUN FANで実験
山間と田畑に向けて50mごとに計測し、通信が可能確認を行う。山間は750m、田畑は1000mまで電波計測ができることを確認できた。(ちなみにこれは山間750m以上は急斜面過ぎて計測ができなかっただけであり、田畑も直線距離1000mあたりで住宅に当たるため、そこで計測を打ち切っただけである。もっと届くかもしれない。)
他のLPWA機器とくらべ、山間での電波到達率がよかったことと、Wi-SUN FANは(仕様上)通信速度は50k~300kビット/秒で、日清システムズさんのHPでも画像転送実験をされていたことから、これを使っていこうかと考えました。ウィークポイントはちょっと高価なところ。
さて、水仙畑を囲う程度であれば、Wi-SUN FANを用いても大丈夫そうだけど、複数の水仙畑間をつないだり、実験地(山)と実験地をメッシュネットワークで繋ぎたいと思うと1㎞だとものたりないんですよね。
村国山電波到達実験(山頂)
福井県越前市の許可を得て、大学周辺の一番高い山(通称:村国山)にWi-SUN FANを組み込んだ電波塔を設置し、どこまで電波が届くのか試してみた。
村国山(238m)はこんな感じ。大学から2~3kmくらい。
電波塔はこんな感じ。ハイキングのおじさんにまじって単管パイプを軽トラで運ぶ。
で、電波塔から発信した電波が子機(2m)に届いているかslackから確認。子機側をもって町中を練り歩きました。で、計測結果の緯度経度をGoogleMapにプロットしたのが以下。
だいたい半径最大3.3kmまで届いた!
けれども、木が邪魔で東と西に電波が全然届いておらず、東にある大学までは電波が届かない模様。
どうしようかな~んー
と思っていたら何かよいものを発見
この電波塔、調べてみると福井県の所有物で防災無線用らしい。なるほど。
ということで、県に問い合わせ、県から許可をもらい(簡単に書いたが結構大変だった)この電波塔の上に大学のWi-SUN FANを置かせて頂くことに。
設置した図はこちら。この写真はドローンで撮影。アンテナが下向いていたのでこの後直しに電波塔登りました。
こいつは電波が届きそうな予感がびんびんするぜ。
実験結果は以下のような感じ。
最大、半径8kmまで届き、障害物があるものの、大学の屋上までも電波が届いたことを確認。なかなかよいパフォーマンスを発揮してくれていることがわかる。
実際はメッシュネットワークで運用する予定だけど、ワンホップでここまで届けば十分。
もうちょっと高さを上げるか、もう一つ機器を設置してメッシュ化すれば、越前市の市街地はほぼほぼネットワークで覆えそうな気がする。